映像情報論ー映像に対する感受・知覚・解釈を豊かにするワークショップ型授業の実践

今学期、文教大学の広報学科で映像情報論という映像に対する感受・知覚・解釈を豊かにするワークショップ型授業を行っていました。

この授業は、自分の感じていることを感じる、ものごとを豊かに知覚するという僕のテーマを、映像を対象に行ったもの。

今週、その授業の最終回を終えたので、ここにまとめておきたいと思います。
授業を振り返って考えたこと、学生の作品例、学生の感想などは別記事で書こうと思います。

このワークショップは、大学外でもやっていきたいと思っています。
興味のある方はコメントください。



■概要

映像から何を情報として受け取るか。
映像から何を情報として感受・知覚・解釈するか。
映像で撮影する環境や出来事から何を情報として感受・知覚・解釈するか。


映像表現が受け手にどんな感覚や感情を生むのか。
ある感覚や感情を表現したい時にどんな表現をすれば良いのか。


記号としての意味だけではなく、個人の感覚や感情によって、受け取る情報の量や種類が異なってくる。この授業では、映像情報から何を感受・解釈するか。さまざまな映像を実際に観ながら、感受や解釈を広く深くしていくことを実践する。また、他者と自分との観点や解釈の違いを共有していく中で、ある映像が鑑賞者にどのような心理的効果や感覚をもたらすかを実体験を通して学んでいく。


また、映像が映し出す環境に対する感受や解釈を広く深くしていくことも重要である。一流の写真家は、撮影対象から様々なことを感じ取っている。


さらに、ある感覚や感情をどう表現したら良いかを知っていることが重要である。
映像の感受・知覚・解釈・表現のプロセスを通して、ただビジュアルとしての映像表現ではなく、それが与える感覚までを含めて、映像素材を取り扱い可能にしていくことを目的とする。



■授業内容


第一回:自己紹介+ガイダンス
ー自己紹介ワーク(やっていること/自分を表すキーワード/好きなものごと/映像と私/授業に期待すること)


第二回:感じていることを書いてみる

まずは自分が感じていることを書き出してもらう習慣をつけてもらうために、モーニングページをやってもらった。
朝、起きたら一番にモーニングページを開き、そこに向かって頭に浮かんだことをどんどん書き出していきます。その瞬間に思いついたことを意識の流れそのままにノートに書き出していきます。

映像という対象を、写真ー動画ー環境(*映像が映し出す対象として)の知覚をテーマに、それぞれに対して感じたこと/考えたことを書き出してもらった。
まずは特別な指示も方法も与えずに、ただ書いてもらう。


第三回:質問/指示と共に写真を観る

写真に絞り、こちらが選んだ10枚の写真質問や指示を与えながら繰り返し観て行く、写真をより豊かに知覚する実践を行った。

例えば、視覚に注目して観る、音に注目して観るなどある感覚に限定して写真を観ることで、その要素について細かく深く感じられるということをやった。


・写真が表す物語を想像する

・映っている人物がどんな人物か推理してみる(プロファイリング)

・撮影者の意図/気持ちを読みながら観る

・その写真に映る人物/動物/植物/物の感情を考える

・写真に自分なりのタイトルを付けてみる

・写真に写っていない周りの風景画を想像してみる

・その後写真に写る場所や状況がどう変化するか想像する

・写真を漢字一文字で表すとどうなるか

などを行った。


この時の感想では、こんなにひとつの写真をじっくりいろんな観点でみたことがなかった、感情を表すボキャブラリーが足りないという感想が観られた。


第四回:感覚感情を表すボキャブラリーを増やす


第五回:感覚感情を表すボキャブラリーを増やす

感情を表すボキャブラリーを増やすために、まず自分がこれまで書いた言葉の中から、感覚や感情をよく表す言葉を紙にまとめて書き出してもらい、クラス全体で共有することをした。また、言葉の表現を豊かにする手段として、オノマトペ/創作擬音語と詩人の詩的な言葉を紹介し、写真をオノマトペや詩で表現してみるという実践を行った。


第六回:様々な写真表現

表現によって、与えられる感覚感情が異なることを体験するために、さまざまな写真表現事例を紹介した。


第七回:動画の知覚

中盤からは、対象を動画にして知覚実践を行った。

まずは動画は写真に比べて要素が多いため、まずは動画に映っている人物に対象を絞り、その人物の雰囲気を捉えてどんな感じがするのかを言葉にしてもらった。

続いて、その雰囲気を創作擬音語で表現したもらったり、色でいうと何色になるのかをカラーチャートから選ぶという実践を行った。この雰囲気を色で捉えることができる友人がおり、かなりの解像度で、透明度や触感も含めて色味の違いを捉えているという経験を参考に行った。普通の人でも明るいー暗いとか、暖色ー寒色くらいの感覚はある。この感覚をより細かく分けられるようになることで、言葉にはできないが、微妙な違いを知覚できるようになるのではと考えている。


第八回:動画の知覚

動画の見方として、動き、表情、音/声、感情/気持ち、時間、物語の展開、登場人物の人間関係、登場人物の心理変化を提示し、それぞれに注目して観るという実践を行った。また、登場人物になりきるという指示で動画を観るという実践も行った。


第九回:映画展開予測

映画のさまざまな要素とその変化を捉えることで、映画のその後の展開を予測するという実践を行った。例えば、ヒロインは人物Aといる時は曇った表情をしているけど、人物Bといる時は明るい表情に変わった→人物Aの元を離れて、人物Bと恋に落ちるだろうとか。最初、主人公と人物Cが電話で話した時喧嘩を売るような態度をとっている→後でこの二人は争い合うだろうとか。予測を立てていく。予測をたてる上で、様々な要素を捉えることが必要とされるので、映像の知覚のトレーニングとなる。


第十回:取り上げたい感覚/感情の表現パターン集をつくる


第十一回:取り上げたい感覚/感情の表現パターン集をつくる


第十ニ回:取り上げたい感覚/感情の表現パターン集をつくる

後半は、興味のある感覚/感情を取りあげて、どのような映像表現がその感覚/感情を受け手に与えるかを探していく作業を行った。

映像を観た時の自分の感覚/感情に鋭敏になってもらった上で、その感覚/感情を生み出す他の表現や事例を探してもらう。映像の作り手や企画者になる上では、このような表現パターンをいくつももっておくことが重要だと考えている。

この授業では、感覚/感情という観点に絞って表現パターンを集めていくということを行った。それぞれが取り上げた事例を全体やグループで共有しながら、吸収できるものは吸収して、表現パターン集を作り上げていく。


第十三回:表現パターン集を活用した映像作品制作

最後に、この表現パターン集を活用しながら、映像作品を制作した。それぞれ取り上げたい感覚/感情をひとつ決めて、作品をつくった。表現は、写真集、フォトエッセイ、動画など自由とした。


第十四回:制作作品発表会

制作作品を机の上に並べて、皆で作品を見て回りながら、感じたことを横に置いたシートに書いていった。


第十五回:制作作品発表会+講評

自分が作品を通して受け手に与えたかった感覚・感情と受け手からのフィードバックのギャップなどを元に、作品を再制作する。製本の仕方や文章表現など、表現したい感覚感情を増幅させるような工夫も観られた。
授業後半からは、特に気になった作品を取り上げながら、講評をしていった。